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がんの近赤外光線免疫療法|これって何?バイオコラム 第26回

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はじめまして、こんにちは。うめ吉です。多忙なまめ太に代わりまして、時々登場しますので、よろしくお願いいたします。札幌は例年より少し暖かいですが、みなさまのお住まいの地域はいかがでしょうか。

今回は、「近赤外光線免疫療法(Near infrared photo-immunotherapy, NIR-PIT)」について書かせていただきます。先週、北海道大学で、「がんの近赤外光線免疫療法」のご講演 [米国NIH/NCI 主任研究員 小林 久隆 氏] がありましたので、拝聴してきました。オバマ大統領(2012年当時)が、以前一般教書演説の中で、「米国の偉大な研究成果」として、この治療法の発見を取り上げるくらい全世界で大きな注目を浴びている技術です。

 

「近赤外光線免疫療法」は、人体に無害な光(近赤外線)と免疫療法を組み合わせた新しい治療法です。がんに対するこれまでの放射線療法や化学療法では、がん細胞のみならず、正常な細胞にもダメージを与え、さらに、人間に本来備わっている免疫細胞も減らしてしまいます。一方、「近赤外光線免疫療法」では、正常細胞にも免疫細胞にも全く影響を与えずにがん細胞だけを攻撃します。近赤外線は身体に無害であり、ほとんどのがんに適用でき、転移がんにも有効であるというデータが示されています。副作用がなく、必要な設備や薬品(IR700※を乗せた抗体も少量で、従来の抗体占有率の0.1%ほど)は安価なので、医療費の削減にも大いに貢献できると考えられています。まさに、がん細胞のみを選択的に破壊し、免疫細胞を活性化する夢の治療法なのです。

 

この治療法を具体的に述べたいと思います。

まず、がん細胞にのみ結合する抗体と、抗体に接合された光吸収体(IR700)の薬剤を静注します。 1~2日間で、この抗体薬剤が血流をめぐって腫瘍部に届き、がん細胞と結合します。そこに、近赤外線を照射すると、がん細胞に結合した抗体薬剤の光吸収体と反応し、選択的にがん細胞の細胞膜を破壊するという仕組みです。 がん細胞が破壊され、消滅してしまうまでの時間は、わずか1~2分間と非常に短いです。光を当てる際は、光ファイバーを患部に注入し、近赤外線を照射することになるため、食道・胃・大腸・肝臓・膵臓・腎臓・肺・子宮など、全身のがんの約8~9割に適用できるそうです。

この治療法が、画期的である点はこれだけではありません。実は、「近赤外光線免疫療法」は、破壊されたがん細胞の残骸に含まれる「がんの特異的抗原」に対して免疫反応がしっかりと引き起こされるため、近赤外光線を照射した患部以外のがん細胞や転移したがん細胞にも効果を及ぼすことが期待できるのです。 つまり、破壊されたがん細胞が、そのがんに対する攻撃方法を免疫細胞に教えてくれるということです。結果として、がん破壊を助ける免疫応答 [がん細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T Lymphocyte,CTL)の活性化] を誘発するため、転移しているがんにも効果を発揮してくれます。むしろ、こちらの免疫系の作用のほうが重要かもしれません。

 

さらに、免疫細胞の働きを阻害する制御性T細胞(Treg)も取り除くことで、免疫細胞が活性化し、わずか数時間で転移がんに攻撃を仕掛けます。今回攻撃するのはがん周辺に集まっている呼び集められたTregのみであり、近赤外光線に曝露しなかった臓器のTregは影響を受けなかったということです。すでに、マウスによる実験では、Treg除去法(Tregを標的とする抗体にIR700を接合した薬剤を投与する方法)により転移したがんをも撃退できることが確認されています。

最近のデータとして、CSCs(Cancer Stem Cells:がん幹細胞)やCTC(Circulating Tumor Cells:血中循環腫瘍細胞)に対する「近赤外光線免疫療法」の有効性についても言及されていました。

最後に小林先生は、「近赤外光線免疫療法は、多くの患者さんを治療することができるものだが、破壊されていくがん細胞は各患者さんの体の中で育ったものであるため、免疫は各患者さんによって異なるものであり、個々人に最適なテーラーメイド療法であると言うことができるでしょう」とおっしゃっていたことが印象的でした。

 

現在、米国のベンチャー、Aspyrian Therapeutics,Inc.(アスピリアン・セラピューティクス社) で、「再発頭頸部がん」を対象とした米国Phase 2試験がほぼ終了しており、グローバルPhase 3試験の開始に向け準備を進めているとのことです。日本では楽天との合弁会社アスピリアン・ジャパンを今年3月に設立しており、同社が治験を実施する計画のようです。

この「近赤外光線免疫療法」であれば、最終的に治療後の転移の心配もなくなり、治療が難しかったハイステージのがん患者さんでも、根治治療が可能になるかもしれません。日本での早期承認、実用化が期待されます。

※IR700:がん特有の部分に付随する抗体と対になっている色素。フタロシアニンとも呼ばれ、4つのフタル酸イミドが窒素原子で架橋された構造をもつ環状化合物である。

 

 

 

なお、本件に関するお問い合わせは、お問い合わせフォームよりお願いいたします。